シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

キルギスの奇習「誘拐婚」 ①

johnfante2007-02-23

Kyrgyzstan

Kyrgyzstan


28歳のアイヌル・タイロヴァ(Ainur Tairova)さんは、デートしていた男性によって誘拐された。
「私は怒りました。また、裏切られたとも感じました」
しかし、最終的にはその男性と結婚し、自分の運命を受け入れたのである。
(写真はアイヌルさん)


※ ピーター・ロム監督によるドキュメンタリー「Kyrgyzstan – The Kidnapped Bride」の一部はこちらで見られる(18分ほど)
http://www.pbs.org/frontlineworld/stories/kyrgyzstan/thestory.html


誘拐されてきた女性が泣き叫び、男性側の一族の女たちに無理やりショールをかぶせられ、結婚を受け入れるように説き伏せられ、最後に解放される場面に立ち会った、かなり衝撃的な映像。
また、誘拐を前に昂奮してにこやかに笑う老夫婦の姿や、実際に男がめぼしい女を求めて町を歩きまわる姿の映像、その他、誘拐が成功して幸せいっぱいの夫婦や、誘拐婚体験者へのインタビューなど。


アイヌルさんの「誘拐婚」


旧ソ連諸国の1つ、キルギス共和国キルギスタン)。キルギスタンカザフスタンと中国に挟まれた国土を持つ人口500万人の国。
アイヌルさんの不安は、高校の卒業式の前日にはじまった。8歳上のエリムという男が、卒業式の翌日に彼女の誘拐をたくらんでいる、と友人が知らせたからだ。
卒業式には出たが、恐怖に脅えていた。誰を信用していいか分からなかった。しかし、このとき誘拐者は現れなかった。
「16歳になった若い女性には、誰にでもおこりうることです」


アイヌルさんは高校卒業後、南キルギス市にある大学に入学したが、またもや、自分の出身地の村の家族が、息子のために彼女を花嫁にしようとたくらんでいることに気付いた。見知らぬ人間が、彼女の身辺をさぐりはじめたのだ。
 ある夜、アパートのドアがノックされた。彼女は妹と住んでいた。外には自称花婿と、10人の男たちが待っていた。6時間もの間、彼女は部屋の外へ出ることを拒み続けた。結局、男たちは諦めて帰っていった。
大学卒業後、アイヌルさんは両親の元に帰った。煙草会社の帳簿係として働きはじめた。ある日、一人の男が自己紹介をしてきた。20分ほど話したが、もう一度会いたいと思うほどの男性ではなかった。彼女は男性にそう告げた。
 

略奪婚 アラ・カチュー


その翌日、アイヌルさんは誘拐された。2人の友人と一緒に、会社のバスを待っているところだった。車が眼前に止まった。2人の男性が乗っていて、3人とも送るよといった。友人が1人の男の知り合いだったので、合意した。しかし、車の運転手が回り道をして、前日の男を拾ったとき、彼女は不安になった。
彼女を車に乗せた男たちは、前日に声を掛けてきた男の友人だった。車が進むにつれ、彼女は自分が無理やり結婚させられようとしていることに気付いた。思わず、運転している男の首を絞めにかかった。しかし、もう1人の男が彼女を引き剥がした。
男性の家に着くまでに、なんとかしなくてはならなかった。アイヌルさんも、風習「アラ・カチュー」のことを知らないわけがない。男の家にいったら、服従して男の妻にならなければならない。もし拒否したなら、「汚れた女」の烙印を押されることになる。


彼女はロシア語で「私はもう女の子ではないんですよ」と婉曲に言った。処女でないというのは嘘だったが、それは効果があった。
運転手は車を止めて、男たちは道端で彼女が言ったことについて議論をはじめた。男たちは無言で車に戻り、彼女を村に帰すために車をUターンした。
その後、村での彼女生活は一変した。男たちが誰も興味を示さなくなった。煙草工場の人々は公然と彼女のことを嘲った。父親はそんな嘘をついたことを怒った。だが、彼女の身を心配して、毎日バス停から家まで送るようになった。 

現在の夫にも誘拐された


アイヌルさんの友人が、後に結婚することになる、ある男性を紹介してくれた。彼女の過去を気にしないという人だった。自分が誘拐されたくない旨を恋人に伝えた。彼は「誘拐はしない」と約束してくれた。数ヶ月デートを重ねた後、その恋人は彼女にプロポーズをした。このとき、彼女は結婚を受け入れなかった。
うららかな9月の晩、友だちに会うためにレストランに向かった。再び男性でいっぱいの車に乗っていた。車は田園地帯へと向かい、相手の両親が住む農家へ到着した。彼女は少々ヒステリックになっていた。


男たちがアイヌルさんを車から引きずり出し、恋人の実家のなかへ無理やり連れ込んだ。彼女は将来の義理の母を罵った。一族の女たちが出てきて、彼女の頭に花嫁の印であるショール「ジュールク」をかぶせようとした。それに必死で抵抗した。真夜中に外へ逃げ出したが、暗闇で男に捕らえられてしまった。
 家に戻ったアイヌルさんは、食べることも、飲むことも、寝ることも拒否した。翌日、彼女の両親がやってきて、結婚を受け入れるように説得した。彼女は裏切られたと感じ、丸一日泣いていた。
 しかし、彼女も他のキルギスの女性と同様に、結局は運命を受け入れた。その後、夫の親戚とも仲直りし、現在では夫に満足しているという。
「彼は言ったの。他の男が誘拐しようとしていたので、わたしを先に誘拐してなくてはならなかったんだって。彼はいい人なのよ」


※ ピーター・ロム監督の映画51分のフル・バージョンのDVD「Bride Kidnapping in Kyrgyzstan」は下記で買える。
値段は390ドル。http://www.frif.com/new2005/brid.html


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http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/from_our_own_correspondent/299512.stm