米国史上最高額 ダンバー社強奪事件 ①

オーシャンズ12 [DVD]

現実は映画より奇なり。映画「オーシャンズ12」のような事件は実際にも起きている。
それは1997年にロスで起きた「ダンバー社強奪事件」である。
890万ドル（約22億円）の米史上最高額の現金強奪事件。
首謀者によって組織された６人チームの完全犯罪であり、
犯行後の現金洗浄が、会社や不動産に投資するなど巧妙であった。

ダンバー社の強盗事件

ロサンゼルスには現金があふれている。
現金を安全で迅速に届けるのが、全米１の現金輸送車を保有するダンバー社（Dunbar Aemored）の役目である。
ダンバー社は現金輸送だけでなく、銀行や企業に代わり、彼らの資金を保管している。その額は驚くべき数字である。500万〜5000万ドル、ときには1億〜2億ドルを輸送することもある。
ダンバー社の金庫室は何重もの安全装置で守られている。警報システムを抜けても、監視カメラや警備員がおり、堅固な金庫が待ち受けている。
連邦金塊貯蔵所と同様に、なかの現金には触れることができない。

しかし、1997年9月13日、不可能が現実となった。
少なくとも4名の男が、目出し帽をかぶって武装し、ダンバー社に押し入った。軍隊のような正確さと慎重さで、犯人たちは1890万ドル（約22億円）を強奪した。これはアメリカ史上最高額の現金強奪だった。
手がかりはなかった。犯人の顔はわからず、指紋も残されていなかった。監視カメラの録画装置も残されていなかった。唯一、発見されたのは、会社の車両とは違う黄色のテールライトだった。芸術的ともいえる見事な犯行であった。

「オーシャンズ13」の予告編

「われわれはすぐに正確な強盗の手口を、調査しはじめました。すぐに犯行の巧妙さがわかりました」と、この事件を担当したＦＢＩ銀行強盗専門課ジョン・マッキーチンは語る。
「明らかに周到に計画した強盗でした。考え抜いて実行された、頭脳的な犯行でした。30分で犯行を終えています。」連邦検事補佐アルカ・サガールも証言する。
「そのため、われわれは建物内部に詳しい者の犯行と考えました」とロサンゼルス市警刑事ジョン・リカータも言う。
当局は内部の者が関係していると見て、過去も含めた従業員を容疑の対象とした。ダンバー社の役員に心当たりの従業員を尋ねたところ、何人もの人間がアレン・ペースの名前をあげた。

首謀者アレン・ペース

アレン・ぺースはダンバー社の元従業員で、約１年半働いていた。地域安全管理の責任者であった。彼にはそれ以外にも仕事があった。アメリカ史上、もっとも驚くべき強盗を計画していたのだ。アレン・ペースは首謀者だった。
アレンは普通の男だった。中流家庭に育ち、前科もなかった。会社では冗談も言うし、面白い人間と見られていて、このような大きな強盗を実行するとは、誰も想像しないような人物であった。強盗と結びつかせないように振舞うのが、彼の計画の第一歩だった。

アレン・ペースは強盗団を組織しようと考えていた。そこで昔からの友人を誘った。
フレディ・マッケリー、テリー・ブラウン、エリック・ボイド、ユージーン・ヒル、トーマス・ジョンソン。信用できる友人たちで、前科がなく銃の扱いを知っている有能なチームが出来上がった。
彼らはナイトクラブで、用心棒のような仕事を副業にして働いていた。一緒に育ち、同じ仕事をしている仲間たちで、信頼しあっていた。
捕まっても、仲間のことは口を割らないことを、前もってお互いに約束していた。アレン・ペースは原則を浸透させた。「みんなは一人のため、一人はみんなのため」と。
みんなが信頼する生まれついてのリーダーだった。彼が強盗は成功すると言えば、みんなはそれを信じたのだ。
「いい機会だ、一度だけ強盗をやろう。それで一生、楽に暮せる」
そして計画を練った。

アレン・ペースはダンバー社の金庫施設の正確な図面を持ってきた。彼は仲間に写真を見せ、外観やなかの様子などを教えた。
廊下にある監視カメラの場所も写真に記録した。これらの写真で仲間たちは、ドアや廊下の様子が想像できた。
アレン・ペースは手順を説明した。建物に進入したら、カメラと警報機を避ける。銃を持った警備員を倒し、警備システムを制御して、金庫に入る。そして、0.5トンの現金を車に運び入れる。一連の動きを30分以内で終了する。重要な従業員の写真も見せた。
なぜ簡単に撮影できたのか。アレン・ペースは安全管理者として、施設内を自由に歩きまわり、疑われることなく建物内部の写真を撮ることができた。失敗はできない。
目的の建物まで車で何度も行き、下見をした。彼らは建物のすべての出入り口と、隣接する道路を知っていた。ロサンゼルスの市街地の高速道路も熟知していた。
準備は入念だった。