シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ロンリーハート ②

johnfante2007-12-17


レイモンド&マーサの事件を映画化したもの(上)
実際の2人の写真(右)

男女2人組の詐欺師


レイモンドはマーサにすべてを打ち明けた。詐欺のこと、複数の妻がいること。レイモンドはマーサを彼の手下にすることに決めた。
そして、最初のカモとして、ペンシルヴァニアの41歳の女教師に狙いを定めた。こうして2人の奇妙な、その日暮らしのアメリカ横断の旅がはじまった。


48年2月、レイモンドとエスター・ヘナ(Esther Henne)は小さな教会で結婚式を挙げた。妹と名乗る太った女(マーサ)もついてきた。新婚カップルと妹は彼女のアパートで暮らしはじめた。最初の4日間はレイモンドも礼儀正しかった。
しかし、エスターが保険証書と教師年金の譲渡にサインをしないので、レイモンドは舌打ちをした。結局、レイモンドとマーサは彼女の車と数百ドルを奪っただけで、離婚を申請することにした。

イリノイ州


48年8月、男女2人組はイリノイ州に現れる。
レイモンドはマートル・ヤングという若い女性と結婚した。マーサも妹としてついていった。しかし、マーサは2人が初夜を無事に迎えられないようにあらゆる努力をし、マートルと同じベッドに寝て見張った。
マートルが騒ぎ立てるので、レイモンドは大量の睡眠薬を飲ませた。そして意識朦朧のまま、アーカンサス行きの長距離バスに乗せた。それで2人は彼女から4000ドルを盗むことができた。マートルは翌日にリトルロックの病院で死んでしまったが、2人は長い間その事実を知らずいいた。
この頃からレイモンドはマーサを重荷に感じはじめるが、一度2人でいることの気安さ、再び一匹狼へと戻ることの孤独を思うと、ついマーサを手放せなかった。


堅気になれなくて


その後、彼らは東部への帰り道、いくつかの町に立ち寄って若干の金を調達する。
ニューヨークに帰り着いてすぐに、犠牲者を探してロンリーハートの広告をチェックした。所持金は徐々に少なくなっていた。
冬になり2人組は堅気の仕事に就こうとするが、なかなか見つからなかった。マーサがあるがままのレイモンドを受け入れてくれるので、甘えが出て仕事が嫌になると止めてしまう。


マーサを看護婦の仕事に就かせようとしたが、色男のレイモンドが何をしているのか気になり、どうしても仕事が手につかない。そういう訳で2人はいつも一緒にいるしかなかった。
そんななかレイモンドはニューヨーク州在住の66才の未亡人ジャネット・フェイに目をつけた。彼女は銀行に貯蓄をたんまり蓄えている敬虔なカソリック教徒だった。



出稼ぎ旅行が逃避行へ


48年12月、レイモンドとマーサは花束を抱えてジャネットの家を訪ねた。
彼らは宗教的な議論をして数日を過ごした。マーサは妹として紹介された。3人はロングアイランドへ引っ越すことになった。49年1月3日、ジャネットは6000ドル以上の現金を口座から引き出して、2人組と一緒にアデライン通り15番地の新居に移った。


翌日、3人は一緒にディナーをとって床に就いた。その夜、レイモンドとジャネットが同衾しているのを見たマーサは嫉妬の炎を燃やした。ジャネットと夫婦の関係になるのは仕方ないが、心はマーサだけを思っているように迫った。
マーサにとっては、レイモンドは初めて見つけた真実の愛の対象であった。犯罪の片棒を担ごうが何をさせられようが構わないが、レイモンドの愛だけは失うわけにはいない。度々もめる2人の姿を見て、ジャネットはマーサに「私たちと一緒に住むことは許さないわよ」と怒って言った。

ジャネット殺し


それまでにはレイモンドも癇性のあるオールドミスであるジャネットに嫌気が差していた。
「この女を黙らせろ。そのためには何をしても構わない」とレイモンドが言った。そのとき、マーサの嫉妬心と復讐心は怒涛のように流れ出した。彼女は結婚詐欺師のパートナーとしての役割に耐えられなくなっていたのだ。
次に気づいたとき、マーサはジャネットの頭をハンマーで殴り倒していた。その頭からはたっぷりと出血していた。それからスカーフで彼女の首を絞めて殺した。2人はついに一線を踏み越えてしまったのだ。


その後、2人は愛を確認するように、死体の傍で愛の行為に及んだ。レイモンドは自分で手を下した訳ではないので良しとした。レイモンドとマーサは部屋をきれいにした後、死体をタオルとシートで包んで、それをクローゼットに押し込み、朝までぐっすりと眠った。
翌日、大きなトランクのなかに死体を押し込めた。そして、レイモンドの姉の家に運び、その借家の地下室に埋めた。翌週、レイモンドはジャネットの小切手を現金化して、彼女の娘に「フロリダへ旅行へ行きます」という手紙を書いて署名をつけた。しかし問題は、ジャネットがタイプライターを所有していないのを知らなかったことだ。不審に思ったジャネットの家族が警察へ届け、警察の捜査がはじまった。