シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

戦車が街を破壊する ①

johnfante2008-11-17

馬鹿が戦車でやってくる [DVD]


上は1964年の山田洋次監督、ハナ肇主演の戦車ものの逸品。「馬鹿シリーズ」第三弾。
映画に登場する旧陸軍の戦車は、雪上車を300万円で改造したものだという。


今回はオーストラリアのいっぷう変わったストーリーです。

プロローグ


2007年7月14日の早朝。
それはオーストラリアのシドニーに住む、グレッグ・モリス(Greg Morris)には大変な一日だった。
グレッグはテレビの朝のニュースを見て、死ぬほど驚いた。戦車がシドニーの街中で暴れている映像が流れていた。おまけに、それは彼の所有物だった。
「私は信じることができませんでした」

戦車の改造


グレッグはリフト・トラックのサービス会社を経営していた。
彼は車のマニアでもあった。グレッグは中古の不用になった戦車を、英国陸軍から買い下ろしてきて、また使えるように改造しようと考えた。
改造して結婚式の披露宴に貸し出したり、モータショーに出したり、子供たち相手の見世物にすれば、お金も儲かって元もとれるだろうと考えた。


それはたったの1台5000ドル(1ドル=約90円)だった。
そこで時代物の旧イギリス軍の戦車と装甲兵員輸送車を1台ずつ購入した。しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
部品を取り寄せたりして動くように試行錯誤しているうちに、時間が経過していった。
また、戦車は一種のアンティークだったので、部品にやたらとお金がかるのだった。
忙しい仕事の合間を見つけながら改造をほどこして、いつしかそれを動かすことがグレッグの情熱になっていった。



実際のニュース映像


頼りになる男


その頃、グレッグは会社でひとりの男を雇うことになった。
45歳のジョン・パターソン(John Robert Patterson)という男だ。
彼は以前、通信会社で働いていた男で、物静かで、言葉づかいが丁寧だった。グレッグはジョンに好感を覚えた。
電気回線やエンジンに詳しいというので、グレッグが戦車の改造の話を持ちかけると、ジョンも興味を持ってきた。


1967年型の戦車をリフォームして、再び動かすためにグレッグとジョンともう1人と3人で立ち働いた。
ジョンが戦車の動力になる主要な部分を担当した。ジョンが配線やエンジンの取り付けをしなかったら、どうにもならなかったかもしれない。
そして、ついに完成する頃には、戦車1台あたり数十万ドル(数千万円)がかかっていた。
なぜなら、客用に貸し出すために、グレッグは内側に革のシートを張って、ミニバーやプラズマテレビを搭載させたからだ。
資産価値としては、1台あたり100万ドル(約9000万円)ほどのものになっていた。
当初描いていた計画の通り、グレッグは戦車を結婚式やショーのために貸し出して商売をはじめた。


ジョンという男


戦車の改造を通じて、グレッグとジョンは急速に仲のいい友だちになった。
2006年12月にジョンはグレッグの会社を辞めたが、その後もたびたびグレッグの家に立ち寄り、ビールを何杯か飲みながらおしゃべりをする仲だった。
ジョンには子供がいるが、離婚したとのことだった。



前にテルストラ社(Telstra オーストラリア最大の通信会社)で働いており、頭部に外傷を負ったが、会社が労災などのケアをしてくれなかったとぼやいた。
また、長年にわたって携帯電話の電波塔のそばで働いていて、どうも体調がよくないとも言っていた。
そうしたことが重なって離職や離婚につながったのか、とグレッグは理解した。
ジョンは「電磁波で体調を崩すこともあるから注意した方がいい」と忠告してくれた。


事件の夜


そのドラマは午前2時頃にはじまった。
元イギリス軍の戦車は、外側を鋼の装甲でかためられ、レプリカの回転砲塔がつけられていた。
真夜中に、戦車はそれが置かれていたガレージを静かに出ると、最初のターゲットへと真っ直ぐむかった。
それはシドニーのミンチンバリー地区にある電気の送電変圧所だった。


「街中を戦車が走っている!」
そのような緊急の知らせを受けたパトカーが、Mount Druitt病院の駐車場から出動した。
戦車はパトカーと出くわし、それと衝突した。その後、戦車は最高時速である52キロで進みながら、Mount Druitt、Dharruk、Emerton、Glendenning、Plumptonといった住宅街を抜けていった。
10台のパトカーが戦車を追いかけた。パトカーに乗った警官たちは、戦車に何度も何度も詰め寄られて、進行方向を変えるしかなかった。
ひとりの男が側面の窓から顔をだして、何度も「邪魔をするな!」と警察をなじった。


 戦車とパトカーのカーチェイスは、深夜の道を走るドライバーたちの目を引いた。
「こんなことは滅多にお目にかかれるものではありません」
と目撃者の一人はいう。
 地元に住むある住人は、パートナーによって起こされたときには信じられなかったという。
「ミックは、おもしろそうだから戦車の後を追っかけてみようと言いました。私もそれに賛成しました」