シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

米国史上最高額 ダンバー社強奪事件 ③

johnfante2007-10-07

オーシャンと11人の仲間 特別版 [DVD]

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オリジナル版の方でも、サミー・デイビス・ジュニアディーン・マーチンフランク・シナトラといった当時の大スターが共演した。


現金を寝かせる


アレン・ペースとその仲間たちは、1890万ドルの現金を盗んだ。それでは、その金をどうしたのか。
チーム全員の当初の計画は、盗んだ金を景気よく使わないことだった。
しかし、ゴミ袋に100万ドルもの金を詰め込んでいたのだ。
何を買おうかと落ち着かなかったに違いない。それぞれに10万ドル(約1160万円)ずつを渡し、アレン・ペースは残りの1820万ドルを貸し金庫に預けた。


ロサンゼルス市警の刑事ジョン・リカータは、アレン・ペースを一目見た瞬間、この男ならばこの犯行をやり遂げるだろうと直感した。
しかし、犯人だという証拠がなかった。現場に残されたテールライトから、レンタカー会社のトラックが使われたと考えられた。捜査当局は、事件当時アレン・ペースの名前で借りられていないか調べた。成果はなかった。物的証拠がなかった。
ロサンゼルス市警もFBIもアレン・ペースを監視した。どこに出かけ、誰に会い、何に金を使っているかなど、彼の身辺を調べた。アレン・ペースは慎重だった。盗んだ現金を使わず、静かに家で暮らし、仲間とも会わなかった。


現金の洗浄


半年後、ほとぼりが冷めると、現金の洗浄をはじめた。
不動産に投資したのだ。何人かの人物を通して、別々に。ロサンゼルスの内外に、100万ドルで多数の不動産を買った。アレン・ペースは書類に自分の名前を残さず、購入者がわからないようにした。
彼の名前で購入したものは何もない。資産と自分が結びつかないように注意を払った。すべて現金で支払い、銀行口座は持たなかった。
10年後には誰も彼のことを容疑者とは見ないと考えていた。不動産から入る利益があるため、仕事もやめられた。


アレン・ペースは連番の紙幣を盗んだことに気づいた。犯行と結びつくものだった。
彼は仲間に紙幣を処分する必要があると話した。仲間が持ち帰り、紙幣を暖炉で燃やした。
燃えるのに時間がかかり、じれったくなった彼らは、現金をラスベガスで使うことを考え付いた。新札はスロットマシーンに詰るので、洗濯機で洗って使った。


驚きの分配方法


数ヶ月が過ぎ、捜査は打ち切られようとしていた。アレン・ペースは口座を開き、会社を作った。「エクストリーム・エンターテインメント」という会社だった。表面上はパーティ用具やリムジンを貸す会社である。
実際は盗んだ現金で、仲間に高い給料を払う会社であった。彼らに支払われている給与明細を見ても、合法的な会社のように見えた。
しかし、アレン・ペースは知らなかった。仲間の1人であるユージーン・ヒルが、現金10万ドルで不動産を買っていたことを…。


その札束には帯がついており、不動産の仲介者は当局に連絡した。
帯に書かれていたスタンプや手書き文字、そして日付などから、あの夜ダンバー社の金庫から盗まれたお金だと判明した。
ユージーン・ヒルの監視がはじまった。当局は銀行と通話の記録を集めただけでなく、レンタカー会社の記録を見つけ、ヒルと犯行がつながった。
捜査の結果、9月12日にヒルがトラックを借り、強盗が行われた時間に所有していたことがわかった。


ユージーン・ヒルを逮捕した翌日の朝、彼は捜査への協力を承諾した。
強盗への関与を全面的に認めて、仲間の名前を証言したのだ。アレン・ペースはヒルと違って取引に応じず、仲間の名前を言わなかった。
2001年2月、事件はついに法廷に持ち込まれ、罪を認めた仲間たちは7年半〜11年の刑を受けた。アレン・ペースには24年の刑が言い渡された。アレン・ペースは今でも強盗への関与を否定している。


※ アメリカでは1回の「現金強奪」では1900万ドル(約22億円)が最高額と見られる。アミル・ディンジオは米史上で最も成功した銀行強盗だが、彼は犯行を繰り返し、総額2000万ドル以上の金品を銀行の金庫室から奪ったと言われる。
2006年2月にイギリスのケント州で発生した、英国中央銀行の巨額現金強奪事件(被害額は5311万ポンド=約108億円)が世界で史上最高額である。

(金子遊)