シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

狼たちの午後 ①

johnfante2007-12-28

狼たちの午後 [Blu-ray]

狼たちの午後 [Blu-ray]


アル・パチーノ主演、シドニー・ルメット監督の映画
狼たちの午後」は実際に起きた事件を元にしている。
写真(右)は事件を起こしたジョン・ウォトヴィッツ


閉店直前のできごと


1972年8月22日。ニューヨーク市は36度という、うだるような暑さだった。
その日の午後2時57分、事件はニューヨーク市ブルックリン地区のフラットブッシュ(Flatbush)にある、チェイス・マンハッタン銀行で起きた。
ショットガンと銃で武装したジョン・ウォトヴィッツ(John Wojtowicz)は、18歳のサルバトール・ナタリー(Salvator Naturile・以下「サル」)と、もう1人のパートナーの男(名前は公表されていない)をともなって、その銀行へ押し入った。


強盗は10分もあれば済むはずだった。
最後の客が出ていき、警備員が表の鍵を閉めた。サルは支店長に銃を向け、ジョン・ウォトヴィッツは女性ばかりの行員に「動くな」と叫んだ。
ジョンは手際よく防犯カメラにスプレーをかけて暗まし、警報機の電源を切っていった。ジョンは元銀行の出納係だったので、銀行について若干の知識を持ち合わせていた。



実際の事件のニュース映像


不測の事態


だが、そのとき意外なことが起こった。パートナーの1人が怖気づき、帰ると言い出したのだ。ジョンに拳銃を手渡し、その男は鍵を開けると走って逃げていった。
ジョンは出納係の女性に金庫を開けさせて、袋に金を入れさせ、カウンターの引き出しのなかにある札束も放りこませた。
周到に印のついた札束は避けた。それから、ジョンは出納帳に火をつけて、ゴミ箱に放りこんだ。


しかし、ジョンとサルにとり、仲間が逃げたこと以上に予想外だったのは、銀行の収入金が既に本社に送られた後だったことだ。たった1100ドルの現金しか、その銀行の支店には置いていなかった。
銀行強盗の計画は、その日の早い時間にジョンが見た映画「ゴッドファーザー」に影響されていた。つまり、計画などほとんどないに等しかったのだ。


2人の犯人、8人の人質


残された1100ドルの金を前に、途方に暮れるジョン・ウォトヴィッツとサル。それでも気を取り直して、行員たちを金庫に閉じ込めて逃走しようとした。
そこへ突然、市警察から銀行へ電話が入った。銀行は完全に包囲されているから、武器を捨てて出てこいというのだ。誰がどうやって警報機を鳴らしたのかは分らなかった。
事態は急変した。
警官隊とFBI捜査官ら、250人を超す大包囲網のなかで、追いつめられた平凡な2人の男は牙をむくことになった。
予期せぬ警察側の敏速な対応に、ジョンたちは成りゆきから、支配人のロバート・バレット(Robert Barrett)、出納係長のシャーリー・ベル(Shirley Bell)ら、女性ばかり8人の銀行員を人質にとったのだ。
10分間の強盗の予定だったものが、実に14時間にわたる立てこもりの人質劇になってしまった。


警官隊・報道陣・群衆


3時10分を少しまわった頃。
銀行の周囲を警官隊、やじ馬の人々、それに少し遅れて、テレビや新聞のカメラが取りかこんだ。ジョン・ウォトヴィッツは「近寄れば、人質を1人ずつ殺して外へ放り出す」と脅した。
ジョンは裏口を確認し、支配人に手伝わせてドアを塞いだ。人質たちには「協力すれば、みな無事に帰す」と約束した。
市警の刑事は、電話でジョンと話した。犯人の人数、人質の人数、人質の無事を確かめるためだった。警察の要求に応じて、ジョンは病弱な老警備員を解放した。
警官隊は犯人だとまちがえて、その警備員を狙撃しそうになった。


(金子遊)