ヴィニシウス 愛とボサノヴァの日々
- アーティスト: バーデン&ヴィニシウス・ヂ・モライス,ヴィニシウス・ヂ・モライス,バーデン・パウエル
- 出版社/メーカー: マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
- 発売日: 1998/04/29
- メディア: CD
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2009年4月から渋谷で公開中。松本、札幌など全国順次公開。
ヴィニシウス・ヂ・モライス
私たちが「ボサノヴァ的」あるいは「ブラジル的」だと思っていたものは、もしかしたらすべてこの男から来ていたのかもしれない。
そんな風に思わせてくれるのが、ブラジルの詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスの生涯を追ったドキュメンタリー『ヴィニシウス―愛とボサノヴァの日々―』だ。
詩と音楽を愛し、ウィスキー飲みでロマンティック、ボヘミアンや音楽家たちと夜な夜な集まり、美しい女には目がない。
彼のことを知らなくても、アントニオ・カルロス・ジョビンの「イパネマの娘」の作詞をし、映画『黒いオルフェ』の原作者といえば充分に事足りるのではないか。
『Vinicius ヴィニシウス―愛とボサノヴァの日々―』の予告編
映画のなかで次々とモライス姓の女性が出てきて、インタビューに答えているので何かと思っていたら、生涯で9度の結婚をして生まれた娘たちだそうだ。
60代にいたるまで美しいうら若き乙女ばかりを相手にし、ほとんどの場合数年で破局するのだが、娘ばかり生まれている。そう、詩人は女系家族に決まっている。
私生活について聞かれたときの彼の答え方がまた素晴らしい。
「私とって女性はセクシャルなだけの対象ではない。死ぬ気で愛するのだ。だから仕方がない。愛はいつか冷めるものだ」と。
黒いブラジル
映画の構造は、最近の伝記映画によく見られる複数の関係者インタビューから、生前の人生を順を追って振り返っていくという形式。
カルロス・リラ、ジルベルト・ジル、バーデン・パウエル、カエターノ・ヴェローゾらボサノヴァの最重要人物たちが続々と登場し、若手の演奏家たちがヴィニシウスの曲を演奏する音楽映画として楽しめる。
しかし、単なるボサノヴァに関するドキュメンタリー映画というだけではない。もっと色々な論点がある。
たとえば、映画のなかに「彼はブラジルの最も黒人のような白人、あるいは白人のような黒人であった」というフレーズが出てくる。
晩年のヴィニシウスのライヴ映像
ヴィニシウス・ヂ・モライス自身はカソリックの家の出身だった。仕事は外交官をしながら、詩や戯曲、映画評などを書く物書きだった。
そんな彼がまったく異なる種類の文章表現であるポピュラー音楽の作詞という世界に、黒人音楽であるサンバを取り入れながら移行していったのはなぜなのか。
あるいは、ギリシャ神話を元にしながら、それをリオデジャネイロのスラム街(ファヴェーラ)という舞台に異色し、黒人劇として書いた戯曲「オルフェウ・ダ・コンセイサゥン」の先見性と黒人性。
1964年にブラジルでは軍政が敷かれたが、左翼性の強かった彼が外交官を首になった問題など。
映画自体はそこに軽く触れているだけだが、近現代ブラジル史を考えていく上でも、この映画は貴重な映像資料となり得るだろう。彼の文学作品や詩集の翻訳も待たれるところだ。
映画公式HP
http://www.vinicius.jp/