全米初の女性シリアルキラー①
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2005/05/28
- メディア: DVD
- 購入: 3人 クリック: 152回
- この商品を含むブログ (54件) を見る
次々と消える車の運転手たち
白い高級ホテルが立ち並び、美しい砂浜と青い海が広がる街マイアミ。
そのカリフォルニアよりもさらに温暖な気候は、一年中を通して半袖でいられるほどである。
フロリダは多くのアメリカ人にとって、週末や休暇を楽しむリゾート地であると同時に、約束の土地としても知られてきた。会社を退職した後の晩年をフロリダに移り住み、静かに暮らそうという年金受給者は、いまも後と立たない。
1989年、そんな平和なフロリダの地を、性と犯罪にまみれた衝撃の事件が次々と襲った…。
リチャード・マロリーは仕事にまじめな方ではなかった。フロリダの電気修理店の店主で、よく店を閉めて2、3日いなくなることがあった。酒を飲んだり、女遊びをしていたのだ。
3年間で8回も家の錠前を付け替える几帳面なところもあった。
が、店員をよく首にすることでも知られていた。だから、1989年12月の初頭、彼が店を閉めたままいなくなっても、気にする者は誰もいなかった。3日後に彼の77年型のキャデラックが、デイトナの町の周辺で見つかるまでは…。
89年の12月13日、フロリダ州ヴォルジア郡の未舗装道路で、2人の青年が屑鉄を探していた。州間高速95号線の近くだった。
売り払えば金になるジャンクの代りに、裏面がゴムになっている細長いカーペットに巻かれた裸の死体を発見した。13日前、最後に目撃されていたリチャード・マロリーだった。
22口径の銃で、3箇所撃たれて死んでいた。
彼の清潔と言えない私生活と、怪しげな知人をめぐる捜査は数ヶ月続いたが、これと言った容疑者はストリッパーの女以外には見つからなかった。
90年の6 月1日に、もうひとつ身元不詳の裸の男性の遺体が見つかった。
フロリダのシトラス郡の森のなかであった。州間高速75号線の、タンパ市から40マイルほど離れた地点である。
6月7日、それがデイヴィッド・スピアースであると確認された。彼は大型重機のオペレーターで、5月19日から行方不明になっていた。
彼は仕事場の上司にオーランドへ行くと言っていたが、結局たどり着けなかったのだ。その後、75号線で彼のトラックも発見された。
ドアはロックされておらず、ナンバープレートがなくなっていた。彼は22口径で、数回撃たれていた。死体の身元が確認されるのは、後になってからのことである。
6月6日、Charles Carskaddon(40)が9発を撃たれた全裸死体で発見。腐敗が進んでいたため、当初は身元の確定ができなかった。
さらなるドライバー殺人
7月30日の早朝、トロイ・バレスはソーセージの配達ルートに出ていった。
午後になっても彼が戻らないので、女性の店長はあちこちに電話をかけ、彼が最後の3件ほどの配達先にまわっていないことが判明した。
その夜、店長とその夫はトロイを捜し歩いた。午前2時に行方不明の届け出を警察に出した。午前4時、マリオン郡の保安官が彼の車を州道19号で見つけた。ドアに鍵はかかっておらず、ナンバープレートがなくなっていた。トロイ自身もいなかった。
その5日後に彼は遺体で見つかった。フロリダの暑気で遺体は分解していたが、結婚指環で身元が特定された。22口径で胸と背中に一発ずつ撃ちこまれていた。
警察は近くに住むジョン・テイリーという名の浮浪者を調査したが、彼を犯人だと決める証拠は見つからなかった。
さらに、9月12日、虐待児童の保護を行う公務員で、元警官のDick Humphreys(56)の死体が発見された。22口径で7発撃たれていた。彼の車は9月の末に別の場所で乗り捨てられていた。
11月19日、トラック運転手Walter Gino Antonio(60)の死体が発見された。着衣に乱れがあり、22口径で4発撃たれていた。彼の車は5日後に別の場所で乗り捨てられていた。
どの事件も、車を運転中の中年男性を狙ったものばかりだった…。春から秋にかけて起こった事件は、比較的温暖で湿潤なフロリダの気候のせいで、どの遺体も分解と腐乱が進んでいて正視できないものばかりであった。共通点は殺人に使われた22口径の銃弾。
平和であるはずのフロリダを震撼させた、この連続殺人事件。いったい、犯人の目的は何であったのか。そして、この凶悪な犯罪をおかす犯人の正体は?
2人組の女を追って
そんななか、一つの不可解な自動車事故が、捜査線上に浮かんできた。
7月4日、オレンジ・スプリングの州道315号線付近で、車が薮に突っ込む事故が起こった。ロンダ・ベイリーは家のポーチに座っていて、一部始終を目撃した。
その話によれば、ブラウンとブロンド髪の女ふたりが罵り合い、ビール瓶を森に投げながら車から降りてきた。ブロンドの女は事故のせいで腕を怪我しており、血を流していた。
彼女たちはロンダに、警察には電話をしないでほしいと頼み、父親がすぐ近くに住んでいると言って、車に戻っていった。それから、窓ガラスの割れた車を薮から出したが、ほとんど走れなかった。二人は道を歩いてどこかへ消えた。
マリオン郡の保安官が、その車を調べに来た。88年型の4ドアのポンチャックだった。コンピュータで調べたところ、車の持ち主はピーター・ジームスだと判明した。彼は6月7日から行方不明になっていた。フロリダ州のジュピター町を出て、アーカンサスにいる親戚を訪ねに行ったのである。彼は65才の、引退した商船乗組員だった。
90年の12月中旬までに、車の事故を起こした2人の女が連続殺人に関連しているという状況証拠を、警察はいくつか掴んでいた。
1年前、彼女たちにトレーラーを貸した男の話から、ティリア・ムーアとリーという名前だとわかった。
タンパにあるホテルで彼女たちを雇ったことのある女性の証言では、彼女たちの名前はティリア・ムーアとスーザン・ブラホベックとのことだった。
他にもリー・ブラホベックという名前もあがった。ある証言によれば、2人はレズビアンで、リー・ブラホベックはトラック運転手を専門とする売春婦だとのことだった。
警察は2人の行方を追った
9月の終わりから12月中旬にかけて、彼女たちはフェアビュー・ホテルに滞在していたことがわかった。そこでは、ティリア・ムーアと、ブラホベックではなく、キャミー・マーシュ・グリーンという名が宿帳に書かれていた。
運転免許と犯罪履歴をコンピュータで調査したところ、ティリア・ムーアは何の履歴もなかった。ブラホベックは家宅侵入罪で逮捕されたことがあった。マーシュ・グリーンはまったく履歴がなかった。おまけにブラホベックとグリーンの運転免許の写真は合致しなかった。
マーシュ・グリーンのIDによって捜査は進展した。ヴォルジア郡の警察はデイトナにある質屋を捜査して、マーシュ・グリーンがカメラとレーダー探知器を質に入れていたことが判明した。レシートの上に、彼女の指紋が残されていた。
このカメラと探知器は、リチャード・マロリーが所有していたものと一致した。同じように、他の質屋では。デイヴィッド・スピアースのトラックにあった物が質に入れられていたことを発見した。
指紋が決め手となった。指紋は全米犯罪情報センターに送られた。指紋はローリ・グロディのものと一致した。ローリ・グロディ、リー・ブラホベック、スーザン・ブラホベック、キャミー・マーシュ・グリーンという名前は、すべてアイリーン・キャロル・ウォーノスの別称であった。
91年1月8日、アイリーン・ウォーノスへの包囲網が狭まっていった。
2人の覆面警官はポート・オレンジにあるパブへ乗り込んだ。しかし、地元の警官がウォーノスを店の外へ連れ出したので動転した。地元の警官は職務質問をした。覆面警官の上司が地元警察に電話し、アリリーン・ウォーノスを泳がせるように指示した。それで、アイリーンはパブへ戻ってきた。
覆面警官の2人は彼女にビールは何杯かおごり、客のふりをして会話を試みた。
彼女は10時に店を出た。道路を歩いていく彼女を、ライトを消した車で警察は尾行した。アイリーンはラスト・リゾート(言わずと知れたイーグルスの名曲)という名のバーに入っていった。少し経ってから、2人の覆面警官はそこで彼女と再会した。ビールをもっと飲み、ショットを何杯も傾けた。2人は12時すぎにその店を出た。アイリーンが店から出ることはなく、その店のシートで横になって眠った。
翌日の午後、覆面警官たちはラスト・リゾートに戻ってきた。2人はアイリーンに、彼らのモーテルに来てシャワーでも浴びて、さっぱりしないかと誘った。彼女はそれに賛成して、店を出た。外で待ち受けていた保安官が、彼女を即座に逮捕した。
ローリ・グロディという偽名を使ったことで逮捕したと宣告し、殺人については何も言わなかった。なぜなら、その時点ではティリア・ムーアの居場所がわからず、また、アイリーンが使用した銃などの物的証拠を警察は掴んでいなかったからである。
②へ続く