シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

フランク・セルピコ ①

johnfante2007-06-21

セルピコ [DVD]


ニューヨーク市警察に根強くはびこる腐敗と汚職
たった1人で敢然と立ち向かった正義の男“セルピコ”の物語
(上はアル・パチーノが演じた映画版。右写真は本物のフランク・セルピコ


正義感の強い警官


1959年、フランク・セルピコは希望と使命感に燃えて警察学校を卒業した。
22歳のセルピコは、NYPD(ニューヨーク市警)に加わった。彼は、9月11日に巡査の見習いとして宣誓し、警棒とシールドを渡されて街に出た。彼の生涯の夢がかなった瞬間だった。
1960年、彼は12年間勤めることになる巡査に昇格した。


81分署に配属されて、約2年間、犯罪情報課で指紋のファイリングなどの仕事をした。そこで巡査としてだが、私服で捜査することを命じられた。
張り切って勤務についたが、理想と現実のギャップはみるまに彼の内部で広がっていった。潔癖なセルピコは、日常的に行なわれている同僚たちの収賄、さぼりなど、警察組織において広範囲にひろがる腐敗と汚職に出会うことになった。



上は映画版の予告編


賄賂を受け取らない男


しかし、ブルックリンとブロンクスで立ち働く、警察官としてのセルピコのキャリアは短命に終わった。
それは彼が、他の刑事たちのように、強請やたかりなどの恐喝をしなかったからである。
配属された最初の日、セルピコは何者かに賄賂の分け前を渡された。
調査部長に報告したが、部長はただ忘れてしまえと忠告するだけだった。
彼は犯罪者たちを見逃すための賄賂をどうしても受け取らなかったので、警察内で立場が徐々に孤立し、自らの身の安全を危険に曝すことになった。


1967年、セルピコは「広範囲にわたる警察の組織的な腐敗を証明する証拠」を上部に報告した。
同僚のデイヴィッド・ダークが助けてくれたので、努力は身を結び、警察内の官僚主義は一時的に停滞したかに見えた。
1970年、セルピコは警察の腐敗を公開した。
そして、警察官たちが日常的に得ている、贈収賄と不当な収入について公にした。
そのことにより、贈賄側からも収賄側からも、多数の死の脅迫を受けることになった。
そんななかで、以前一緒に組んで仕事をやった旧パートナーらについても、不利な証言をしなくてはならなかった。


(フランク・セルピコに関するドキュメンタリー)


4月25日、ニューヨークタイムズが、ニューヨーク市警察署における腐敗のあり様を、一面向きのストーリーで発表した。
ときの市長であるジョン・V・リンジーはようやく重い腰をあげて、警察内での汚職を調査するために、5人のメンバーからなる調査委員会を設置した。これが最終的には、ナップ委員会になる。その議長には、ホイットマン・ナップが任命された。
しかし、警察内の陰謀がセルピコの身を襲うことになった…。


疑わしき銃撃事件


セルピコはm1971年2月3日の午後10時42分、麻薬捜査の間に銃で撃たれた。
ブルックリンの778通りで、張り込み捜査をしているときであった。
ブルックリン北署の4人の警官と一緒に、麻薬取引の情報を得て現場に行ったのである。
それはシンプルなヘロインの取引のように見えた。


建物の正面に止めた車のなかに、2人の巡査、ゲイリー・ロトマンとアーサー・チェーザレは待機した。
3人目のポール・ハレーは、アパートの前に立っていた。
セルピコは車から降りると、火災避難ばしごを登り、屋根から内側の様子をうかがった。
それからヘロインの取引を目のあたりにし、パスワードを盗み聞きしてから、出てきた2人の少年の後をつけた。
警官が2人の少年を捕まえたとき、1人が2袋のヘロインを持っていた。
ポール・ハレーは少年たちと一緒に車のなかに留まった。
ロトマンが中にいる他の奴らも捕まえようと提案した。セルピコスペイン語も話せるから大丈夫だという。


同僚の警官の裏切り


セルピコは、ロトマンとチェーザレと3人で階段をあがり、3階に着いた。
セルピコは、片手に38口径の拳銃を握る手をジャケットのポケットに突っ込んだまま、ドアをノックした。「マンボ」とパスワードを唱えた。
ドアは数インチだけ開いた。チェーンはかかったままだ。
セルピコは押し開けた。チェーンが壊れた。体の一部分を突っ込んだが、ディーラーたちはドアを閉めようとしていた。
セルピコは助けにこようとしない相棒たちを、大声で呼んだ。


犯人か誰かが22口径のLRピストルで、セルピコの顔を撃った。
弾丸は目の下で、彼の頬を貫通し、あごの最上部に留まった。
彼はバランスを失い、床に倒れて、多量の出血を流していた。
刑事が撃たれた件に関する警察本部への報告書では、セルピコの同僚たちは「援助に失敗した」とある。
その代わりに、容疑者のアパートに住んでいた初老のヒスパニック系男性によって救出された。
男は救急車を呼び、男性が撃たれたと報告した。それから救急車が到着するまで、彼を生かすために延命措置をした。
しかし、警察のパトカーが救急車よりも先に到着した。
セルピコが私服刑事だと知らない巡査たちは、彼をグリーンポイント病院へ搬送した。