シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

アルカトラズからの脱出 ③

johnfante2008-03-05

アルカトラズからの脱出 [DVD]

アルカトラズからの脱出 [DVD]


2年の準備期間


フランク・モリスは、独房の壁をくり抜く方法を思いついた。独房棟から抜け出し、海に逃げ込み、泳いで脱出する計画である。
モリスにアングリン兄弟、それに隣の独房のアレンが加わって、脱走計画がスタートした。他の囚人仲間のなかにも協力者がいた。
最大の難関はコンクリートを掘る道具を手に入れることだった。最初はツメ切りや、食堂から盗んだスプーンを使っていた。
現在は老人となった仲間の囚人、ダーウィン・クーン(AZ-1422)は証言する。クーンは彼らのために、スクリュードライバーやノミを調達してやったのだという。 


4人は換気扇のまわりの壁を掘り出す作業をはじめた。コンクリートに細かい穴を開けては、はきだすという方法で、少しずつ穴を広げていった。
作業は消灯後に進められた。隣同士のモリスとアレンは、交替で看守の見張りに立った。鏡で見張り、看守がやってくると、口笛や軽く格子を叩いて知らせるという要領だ。
そして、1962年3月に、ようやく独房の裏手へと続く穴を掘ることに成功した。換気扇を取りはずし、人が這い出るのに必要な35センチ径の穴が開いた。


ザ・ロック 特別版 [DVD]

ザ・ロック 特別版 [DVD]


さらなる難題


独房の裏側は、下水管がはられた1メートル幅の空間だった。
男たちは下水管伝いに、独房棟の上まで8メートルを這い登っていった。そこから2・5メートルの頭上に、8本の換気扇のシャフトが屋根まで通じていた。
7本は鉄格子とコンクリートで密閉されていたが、1本鉄格子だけのものがあった。その1本を弓ノコで切断し、屋根へ抜け出るしかない。
しかし、看守に気づかれずに、切断などの作業を続けるという難問を、モリスたちは抱えた。思いついたのはニセモノの頭を作るという、意表をついたアイデアだった。


石鹸と削ったコンクリートと雑誌の広告で頭のダミーをつくり、色づけをして、本物の髪の毛を貼り付ける。そして、枕にニセモノの頭を置いて、上での作業に向かうのだ。これが可能だったのは、看守たちが見回りで、寝ている囚人の頭の数をかぞえるだけだったからだ。
しかし、難題はさらにその先にあった。どうやって凍てつく海を渡るのか? 
モリスは妙案を思いついた。アングリン兄弟に刑務所にあるレインコートをせっせと盗ませ、それを材料にして筏と防寒着をつくったのだ。
独房に置いたダミーの頭で寝ている振りをして、ごまかして時間を稼ぎ、筏で脱出するという華麗な作戦であった。


歴史的なプリズン・ブレイク


1962年6月11日の夜、その計画は実行された。
しかし、アレンは脱獄に加わらなかった。就寝のチェック後、フランク・モリスとアングリン兄弟の3人は、壁のコンクリートを掘った穴から脱出した。
3人は独房から這い上がっていった。屋根についていた最後の鉄格子は簡単に切断でき、外に忍び出ることができた。
屋根へあがった3人の喜びといったらなかった。それから、物音を立てないように、換気パイプ沿いに独房棟の建物から下りていった。
海岸まで120メートルを駆け抜けた。水辺についたとき、あと一息で自由を手にできるとモリスたちは確信した。


次の朝、ジョン・アングリンを起こそうとしたとき、看守は驚愕した。彼の頭が転がり落ちてきたのだ。直ちにFBIは大勢の捜査員を動員して、捜査を開始した。
その後、いかだの一部やエングリン兄弟の物であった防水バッグなどが発見された。だが、モリスらの遺体は見つからなかった。
誰もがアルカトラズは脱出不能だと信じていた。銃撃戦もなく、海で死体が見つかることもなく、ただ3人は消えてなくなった。彼らは伝説となり、足取りが解明されることはなかった。



フランク・モリスたちの脱走方法を説明したドキュメント


結末


17年後、FBIは「迷宮入り」とした。死体が見つかっていないにもかかわらず、当局はモリスたちがサンフランシスコ湾で溺死したものだと断定している。その理由として、彼らが強盗などの常習犯であったにもかかわらず、現在に至るまで一度も捕まっていないことが挙げられている。
ほとんどの人が、モリスたちが海で溺れ死んだと考えている。反対に、自由の身になったと考える人もいる。当局は溺死したと発表したが、3人がアルカトラズを脱獄したことは間違いない。
あの夜、彼らは自分たちで作った筏で闇の中へ消えた。そして、その日から、彼らの姿を見た者や、彼らの噂を聞いた者はただの1人もいない。


今日に至るまで、連邦保安局の捜査は続けられているが、事件は未だ解決していない。あの夜、彼らの身に何が起こったのか? それは永久に、謎に包まれている。
 1963年3月21日、時の司法長官ロバート・ケネディによって、アルカトラズ連邦刑務所は閉鎖が決定された。閉鎖の理由は諸説あるが、維持費が高額で財政難に陥ったと言う説が有力である。
1972年からは、ゴールデンゲート国立公園の一部として、国立公園事務所の管理下に置かれている。
脱獄した3人は現在も指名手配中である。