シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

スタンダード・オペレーティング・プロシージャー

johnfante2009-05-07

Standard Operating Procedure [DVD] [Import]

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2008年のベルリン国際映画祭銀熊賞、審査員特別賞受賞作品でありながら、いまだに日本劇場未公開のドキュメンタリー。
ホテル・ルワンダ』のときのように、劇場公開を求める署名運動が行われてほしい1本。

アブグレイブ刑務所


イラクバグダッド近郊にあるアブグレイブ刑務所は、サダム・フセイン時代から悪名高い刑務所だった。
米軍が接収した後の2004年、この刑務所で米兵がイラク人捕虜に行っていた虐待の写真が公表され、世界中に衝撃が走った。
アメリカ国内における反戦の機運を高めるきっかけにもなった事件だが、4年後に早々とドキュメンタリー映画が製作された。
監督は『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』で、アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞したエロール・モリス。
胸が悪くなるような事件だったが、ブッシュ政権のあとにオバマ政権が生まれたように、アメリカ社会には独特の自浄作用のようなものが常に働くことも見過ごせない。



『スタンダード・オペレーティング・プロシージャー』の予告編


映画の衝撃


裸のイラク人男性を積み上げた「人間ピラミッド」、捕虜につけられた首輪のヒモを持つ女性兵士など、その衝撃的な写真ばかりが注視されて実態が解明・公表されていなかった事件。
囚人の虐待に加担した兵士らは軍事裁判で有罪判決を受けて、禁固刑になって早々に除隊処分となった。
しかし、この事件、まだまだ醜悪な実情がぞろぞろと出てくる。
この映画『スタンダード・オペレーティング・プロシージャー』が衝撃的なのは、写真で有名になったリンディ・イングランドをはじめとする、虐待に関わった当事者たちのインタビューと3台あったデジタルカメラの写真を元に、あの事件を時系列を追って丁寧に再構成していくところだろう。



映画は一人ひとりの細かなエピソードにまで立ち入っていく。
同情の余地はないが、リンディ(上写真)は「軍隊のなかでは男に制圧されるか、対等になるか」という社会であり、それゆえにこういう勇ましい写真を撮ったと言っている。
当時、リンディは世間の集中砲火を浴びたが、年上の兵士と恋人同士の関係にあり、妊娠までしたという。
禁固3年の刑期を終えて、この映画に出演したのも、母子家庭で子供を育てていかなくてはならないという事情もあるようだ。
その他にも、拷問中に誤って殺してしまったイラク人捕虜の死因を心臓発作と偽り、氷で保管しているときに撮った写真(一番上の右)のエピソードなど、吐き気を催すような真実が明かされる。
また、当事者が撮影していた動画も映画のなかで使われており、こちらも反響を呼んだようだ。


当時は高校を卒業したばかりで前線に送られる兵士たちが、ホワイト・トラッシュの階級の出身であるなど、これは特別な事件であり、彼らに責任を押し付ける言説もなされた。
しかし、映画のタイトル Standard Operating Procedure にもあるように、彼らの虐待がS.O.P.(通常の取り扱いの規定)を逸脱していったのは、当事者の証言にも出てくるが「殺さなければ何をしてもいい」という陸軍に蔓延する風潮の方であったことが見えてくる。
劇場公開されて、1人でも多くの人の眼に触れてほしい1本である。




<上映情報>
アテネ・フランセ文化センター
2009年6月2日(火)
16:00〜/18:30〜
「スタンダード・オペレーティング・プロシージャー」2008(118分)
監督/エロール・モリス
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/lc/lc.html