パーフェクト ストーム ③
- 作者: 冨澤誠
- 出版社/メーカー: 東京図書出版会
- 発売日: 2007/10
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
右は実際に遭難したパラシュート・レスキュー隊の写真
救助作戦はじまる
ジェット機P-3が現場海域に着いたのは、ヘリの不時着から90分後のことだった。
11時半ごろ、空軍州兵の無線の周波数をキャッチ。低空飛行に切り替え、着水ポイントの約20マイル南に、暗視眼鏡で1個のストロボが光っているのを見つけた。
半マイル先にはさらに3個のストロボ。これで4人の搭乗員の行方がつかめた。
H-3大型ヘリが現場に到着したが、あまりに危険なのでレスキュー隊員を下ろせず、救助用バスケットだけを投下した。そして、安定したホバリングを維持しようとしたが、暴風と波でバスケットは2秒と波の上に乗っていられない
。1時間の救助活動でタイムリミットとなり、H-3ヘリは監視船タマロア号と入れ替わりで基地へ戻った。
タマロア号は不時着したヘリの搭乗員のところへ赴いたが、操舵室にいたブルドニッキ中佐は自分が波頭を見上げていることに気づいて驚いた。
最初に発見したのはグレアム・ブッショアーだった。彼は救命スーツを着込み、遭難用発火信号を携帯していた。
兵曹が照明弾を打ち上げ、船首では選ばれた乗組員たちがロープを手にしてうずくまり、投げるチャンスをうかがっていた。暴風のなかで立っていられなかった。
パーフェクトストームで起きたとされるダブル・トルネード(実際の映像)
エンジンを完全に停止し、タマロア号は横波を受けながら進んでいく。船は危険な姿勢だった。
目標に船からは近づけないし、レスキュー隊員を下ろすこともできない。甲板の男たちは手すりごしに、グレアム・ブッショアーに向けて叫んだ。
「泳ぐんだ!」
彼は全力をふりしぼって泳いだ。6、7人の乗組員が船べりから垂らしたカーゴネット(幅の広い縄ばしご)をなんとかつかんだ。
このとき運悪く大波が襲ってくれば、全員がさらわれてしまう。甲板上の乗組員たちがグレアム・ブッショアーを大物の魚のように引き上げて、甲板室に運び込んだ。
彼は4時間25分水につかっており、体温が34度4分まで下がっていた。1人を引き上げるのに30分以上かかった。
決死の帰還
船首が大波をかぶり、乗組員たちの姿がすっかり隠れてしまっている。ブルドニッキ大佐は不安になった。
波にさらわれた者がいないか、常に人数をかぞえていた。
「間違いなく部下の何人かを犠牲にする可能性がある。私が救助活動の中止を決定しても、誰も反対はしないだろう。しかし、人が海で死んでいくのをただ眺めていることなどできるだろうか?」
20分後。タマロア号は海面にいる3人のレスキュー隊員から90メートルのところにいた。
乗組員が照明弾を上げ、サーチライトを当てた。
海面から船べりまでの高さは6メートルはある。
ジョン・スピレーンは怪我をしていたし、ジム・ミオリは寒さでわけのわからないことを口走り、その2人にデイヴ・ルヴォラが手を貸していた。
グレアム・ブッショアーのように泳ぐわけにはいかなかった。3人全員が船の近くで溺死する寸前だった。
化学ライトを先端に結びつけたロープが3人の方へ投げられたが、なかなかつかめなかった。
甲板上の乗組員たちが自分たちの身を危険にさらし、カーゴネットを船端から海面へ投げ下ろした。
船は慎重に近づいてくる。3度目の接近で、ようやく彼らはネットをつかんだ。
そのとき、大波が泳いでいる男たちの足下から引いていった。3人は疲労困憊していて、こらえきれずにネットから手を放してしまった。
波頭の上で
ジョン・スピレーンは水中に潜ってしまった。もがいて海面に浮かびあがると、船が傾いてきて彼は再びネットをつかんだ。
「よし。今度失敗したら、命はないぞ」
甲板の乗組員たちが、再び手繰り上げる。ジョン・スピレーンには自分の身体が、鋼鉄の船体に沿って引き上げられていくのがわかった。
自力でいくらかのぼると、何本かの手で引き上げられた。甲板では立っていられないほど、苦痛が耐えがたかった。
デイヴ・ルヴォラとジム・ミオリの姿はなかった。2人は船尾の方へと流された。
そこでは3メートルのスクリューがまわっていた。操舵手は再びエンジンを停止させた。
2人は船尾を迂回して、左舷の方へ運ばれた。デイヴ・ルヴォラは二度目でネットをとらえ、片手を網目に突っ込んだ。もう一方の手にはミオリを抱きかかえている。
「がんばらないと、ジム! 一度チャンスを逃したら、もう助かることはないんだ!」
ジム・ミオリはうなずいて、両手を網目にかけた。
2人は渾身の力で這い上がり、船がローリングしているので、その姿は見えたり見えなかったりした。
ようやく乗組員の手が届いた。2人が身につけている物は何でもかんでもつかんで、金属の手すりごしに彼らを引っぱり上げた。
2人は海水を吐き出した。デイヴ・ルヴォラがその冷静な判断力と勇敢な行動で、レスキュー仲間の命を救った英雄的な瞬間だった。
一番重態だったのはジョン・スピレーンだった。彼はヘリで搬送されるべきだと医師に判断された。
彼はパーフェクト・ストームの荒海の上を救助担架で吊り下げられていくことを考えると、「どうも気が進まない」と言って断ったという。